OMH-1

OMH-1について

鋳鉄(鋳物)の溶接には、従来より純ニッケルまたは鉄・ニッケル系の溶接棒が使用されておりました。 従って、鋳鉄の表面に硬化肉盛溶接を行う場合は通常次のような手順で実施されております。

まず、純ニッケル系または鉄・ニッケル系の溶接棒で下盛溶接を行い、その上に硬化肉盛棒で改めて溶接されておりました。
しかし、ニッケルはオーステナイト組織で軟らかく、その上に硬化肉盛溶接を行ってもニッケルの影響をうけて多層盛を行わないと硬さは安定しない、という欠点があります。日本ではニッケルを含まないで、かつ鋳鉄に直接溶接できる硬化肉盛溶接棒(例えば弊社のMH-1)が実用化され、自動車プレス金型の盛刃溶接には多く使用されております。

  • OMH-1はこの鋳鉄直盛用で、しかも硬化肉盛用のMH-1をMAG溶接で行なうために新規に開発したものです。
  • OMH-1はソリッドワイヤですのでロボットによる完全自動溶接にも対応できます。
  • OMH-1は日本の多くの自動車メーカーではすでに自動又は半自動溶接法で使用されており、一部のメーカーではロボットに搭載して活躍しております。

以上のようにOMH-1(MAG溶接用ワイヤ)は自動車専用プレス金型の制作には大変に重要な役割を果たしておりその特長は、

  1. 溶接の速さが被覆アーク溶接棒の場合の3~5倍であること。
  2. 溶接部の品質は被覆アーク溶接棒の場合よりも格段に優れていること。
  3. コストは被覆アーク溶接棒の場合と比較して1/2~1/4となること。

以上のように鋳鉄の溶接にOMH-1を使用することにより、より良い品質の溶接が、より早く、より安く出来ます。

以下にOMH-1について、その概要を説明します。

OMH-1の性能

OMH-1は、鋳鉄金型に直接盛刃肉盛をすることを可能にしたMAG溶接用ソリッドワイヤであります。

その特徴は、

  • ソリッドワイヤで鋳鉄盛刃の溶接が一種類のワイヤで出来ます。
  • 3パス2層盛で所定の安定した硬さが得られます。
  • 完全自動化に適用可能です。
  • スパッタが少なく又、美麗なビード外観です。

などが挙げられます。

鋳鉄直盛ソリッドワイヤOMH-1を用いた盛刃法は、5C程度の開先で3パス2層盛でHRC55~60の硬さが得られ又、ロボットとの併用で完全自動化に適用可能です。
盛刃のコストダウンを考慮されている貴社に貢献します。

以下にOMH-1の性能を示します。

  1. 溶接金属の硬さ
  2. 盛刃試験
    2-1.断面硬さ
  3. 試験の結果
  4. 注意事項
  5. プレス金型溶接用として手溶接棒との対比

1.溶接金属の硬さ

25×50×100Lの鋳鉄母材FC300に表-1に示す施工方法で肉盛を行い表面硬さを測定しました。
結果を表-2に示します。

【表-1.溶接条件】

ワイヤ径 1.2mm 母材 FC3000
電源 ダイヘン DP-350 パルス条件 軟鋼パルスレンジ
電流・電圧 80Amp・23V シールドガス Ar+20% CO2
パス間温度 150℃以下

【表-2.溶接層数と硬さ】

肉盛方法 測定法 1 2 3 4 5 平均
イラスト1 ロックウェル
(HRC)
47.8 54.9 52.8 54.5 53.5 52.7
イラスト2 ロックウェル
(HRC)
55.3 54.5 54.1 54.6 55.5 54.8
イラスト3 ロックウェル
(HRC)
57.2 56.9 56.4 57.2 58.4 57.2
イラスト4 ロックウェル
(HRC)
50.9 53.3 51.5 52.2 51.2 51.8

2.盛刃試験(自動溶接)

100角×400LのFC300にC面4.5の機械加工を施し、自動で溶接を行いました。
結果を表-3に示します。

【表-3.溶接条件】

母材 FC300
電流 ・ 電圧 80Amp23V
電源 ・ パルス条件 ダイヘン DP-350
シールドガス Ar+20%CO2
前進角
肉盛要領 イラスト5
ピーニング
溶 接 パ ス 番 号 溶 接 速 度 トーチ角度
1 260 mm/min 55°
2 260 mm/min 65°
3 285 mm/min 55°

2-1.断面硬さ

切削後に断面硬さピースを切り出し硬さを測定しました。
結果を図-1に示します

硬さ測定器 マイクロビッカーズ測定器
荷重 1kg
測定位置 イラスト6

 

図1
【図-1.断面硬度】

3.試験の結果

  1. OMH-1による鋳鉄の肉盛溶接では2層3パスの溶接により硬さは安定します(HRC57)。しかも、硬さのバラツキは非常に少ない。
  2. 溶接金属の割れは無し。また、ブローボールの発生も無し。

4.注意事項

  1. シールドガスはAr+20%CO2を使用して下さい。
  2. 溶接電源はパルスMAG溶接機(例えばダイヘン DP-350)を使用して下さい。
  3. 鋳鉄に対する第一層目は80~90A、21~23V程度の電流・電圧で施工して下さい。
  4. OMH-1は1.2Øの1種類を用意しております。

5.プレス金型溶接用として手溶接棒との対比

プレス金型溶接用として手溶接棒との対比を表-4に示します。

【表-4.ワイヤと手溶接棒の対比】

ワイヤ 被覆アーク溶接棒
高硬度肉盛用 (MH-61S) EA600W
鋳鉄 補修・肉盛用 GN-55SN GRICAST31
鋳鉄直盛盛刃用 OMH-1 MH-1
鋳鉄直盛(HRC約40) MH-400S MH-100S
フレームハード鋼溶接用 MH-5S MH-5